食生活・栄養知識

プリン体ゼロビールは無意味?実は痛風予防に効果がない理由

【薬学博士・大学教授が解説】健康診断で尿酸値が高いと指摘され、痛風予防のためにプリン体を摂らないようにと「プリン体ゼロ」のビールを選んでいる人も多いかと思います。しかし残念ながらノンアルコールビールにしない限り、効果はありません。プリン体と尿酸とアルコールの関係について、わかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

血中尿酸値7.0mg/dL以上は痛風予備軍!? ビール好きは気になる関係性

プリン体ゼロのビールと痛風予防?

プリン体ゼロのビールなら痛風の心配もなくて安心!? 実はその考えは間違いです

近年の健康診断の血液検査では、必ず「血中尿酸値」が測定されます。そして、基準値の7.0mg/dL以上を超えている場合「高尿酸血症」と指摘され、将来「痛風」になる恐れがあると言われます。

高尿酸血症と痛風は、どちらも血中尿酸値が高いことが原因で起こりますが、厳密には違うものです。高尿酸血症は、単に血中尿酸値が基準より高いことを意味しており、不都合な自覚症状がまったく出ていない場合も含まれます。一方の痛風は、過剰な尿酸が体の中にたまり、とくに足の親指の付け根などの関節で結晶化して、激しい痛みを伴う炎症性の発作が起こる病状をさしています。はじめて「尿酸値が高め」と診断されたときに適切な対応をすれば改善が見込めますが、気づかず放置してしまうと、痛風発作に襲われ、治すのが困難になります。

昔は、お金持ちでぜいたくな食生活をしている人が痛風になる傾向があったことから、痛風は俗に「ぜいたく病」と呼ばれていました。しかし、食生活が豊かになった現代では、誰もがかかりうる病気となりました。食事との関連性が深いことから、高尿酸血症や痛風の予防や治療には、食事に気をつけることが大切です。そこで、登場したのが「プリン体ゼロのビール」です。開発の背景にあったのは、次のようなアイデアです。

尿酸はプリン体から生成されるので、高尿酸血症や痛風の人はプリン体の摂取量を減らさなくてはならない。お酒の中でもとくにビールはプリン体がたくさん含まれているので気をつけた方がいい。でもビール党の方にとっては、ビールを我慢するのはきつい。ならば、プリン体を取り除いたビールを作ればいい。

この考え方は大筋で正しいように思えますが、実は、プリン体ゼロのビールを選んでも、高尿酸血症や痛風を防ぐことにはならないのです。一体何が問題なのでしょうか。そのからくりをわかりやすく解説してみたいと思います。
 

プリン体とは……食品中にあり、最終的に尿酸になる物質

「プリン」と聞くと、小麦粉に卵と牛乳を混ぜたものを蒸して作られる、あのお菓子のプリンを連想する方が多いことでしょう。しかし、今問題にしている「プリン」は、それとは違うものです。ちなみに英語では、お菓子のプリンはpudding(プディング)、尿酸と関係するプリンはpurine(ピュリン)ですので、全く別のものだと区別がつきます。 

プリンと尿酸は、下のような化学構造をした物質で、よく似ていますね。ちなみに、プリンは、尿中に見出される尿酸を原料にして化学合成されたので、ラテン語のpurum(純粋な)とドイツ語のurin(尿)を合わせて名付けられました。
プリン,尿酸,化学構造

プリンと尿酸の化学構造

プリンの構造をもった物質は私たちの体内にたくさんあります。たとえば、遺伝情報を担うDNAを構成する核酸塩基のアデニンとグアニンや、活動のエネルギーとして利用されるATP(アデノシン三リン酸)などです。つまりプリンは、体のどこにでもあり、かつ生きていくうえで欠かせないものです。また、化学構造中に窒素(N)を含んでいるので、塩基性(アルカリ性)を示すことから、プリンの構造をもった生体内物質を「プリン塩基」と総称します。さらに、食べ物の中にもたくさん含まれているので、とくに食品中のプリン塩基を「プリン体」と呼んでいます。

私たちの体の中にあるプリン塩基が不要になると、段階的に代謝され、最終的に尿酸に作り変えられ、尿中へ排泄されていきます。
 

尿酸の産生量・排泄量はほぼ同じ! 一定量が保たれている尿酸プール

多少の個人差はありますが、平均すると、1日で私たちが体内のプリン塩基を代謝することで作り出している尿酸の量はおよそ500mgです。また、1日で食べ物として摂取したプリン体から作り出される尿酸の量はおよそ100mgです。合計すると、1日およそ600mgの尿酸が産生されています。

一方、1日におよそ500mgの尿酸が腎臓から尿中排泄されています。また、汗や便中におよそ100mgの尿酸が排泄されています。合成すると、1日およそ600mgの尿酸が体外へ排泄されているのです。

お気づきだと思いますが、体内で作られる尿酸の量と、体外に排泄される量はほぼ同じなのです。実に見事に収支バランスがとれていて、体内にはいつも一定量(およそ1g)の尿酸がキープされているのです。これを「尿酸プール」と呼びます。

尿酸は、単なる老廃物ではなく、体に役立つ働きもしています。必要なものとして、一定量が保たれています。その量が増えすぎても減りすぎてもだめなのです。
 

なぜ高尿酸血症や痛風は男性の方が多いのか?

痛風の患者は、圧倒的に男性が多いです。ある調査では、男性が98.5%で、女性はわずか1.5%と報告されています。

健康な男女で比べた場合でも、男性の方が血中尿酸値が高めになっています。なので、少し異常をきたしただけでも、男性の方が高尿酸血症そして痛風になりやすいのです。

男性の方が尿酸値が高い理由の一つは、女性ホルモンに尿酸の排泄を促す働きがあるからです。女性は、尿酸の排泄がさかんに行われるため、尿酸プールが少ないのです。ただし、閉経後の女性は、女性ホルモンが減少しますので、尿酸の排泄が低下し、男性と同じくらいに尿酸がたまるようになります。事実、若齢では男女差が顕著ですが、50歳を超えると男女の尿酸値の差が小さくなります。

もう一つの理由は、男性の方が筋肉量が多く、活動によって体内に活性酸素が発生しやすいからです。尿酸には、抗酸化作用があり、有害な活性酸素を消失させる役割を果たしていると考えられており、より活性酸素が発生しやすい男性では、尿酸がたくさんあったほうが助かるという意味で、わざと尿酸プールを多くしているのではないかと考えられます。
 

プリン体ゼロでも効果なし…尿酸値を改善したいならノンアルコールビール

尿酸プールは、尿酸の産生と排泄のバランスによって保たれていますので、産生が増えるか、排泄が低下すると、バランスが崩れて尿酸プールが増大し、血中の尿酸濃度が高くなります。これが高尿酸血症の状態です。ですので、同じ高尿酸血症といっても、尿酸産生の異常に起因する「産生過剰型」、腎臓からの尿酸排泄の障害による「排泄低下型」、およびそれらの「混合型」があるのです。

産生過剰型の場合は、尿酸産生に関わるしくみを薬で抑えると同時に、食事から入ってくるプリン体の量を減らすことで改善が期待されます。しかし、日本人の約6割は排泄低下型なのです。この場合、食事のプリン体を減らしても治りにくいです。

あるデータによると、ビールには100gあたり5.7mgのプリン体が入っており、日本酒(1.5mg)、ワイン(0.4mg)、焼酎(0.1mg)に比べると、確かにプリン体が多めです。しかし、実際の食事において、ビールから摂取するプリン体の量は、それほど多くありません。例えば、一見ヘルシーに思えるかつお節、干ししいたけ、レバー、いわし、あじなどは100gあたり100~400mgのプリン体を含んでおり、ビールよりもはるかに多いです。なので、ビールだけ「プリン体ゼロ」にしてもあまり意味がないでしょう。

さらに、高尿酸血症や痛風の方が、ビールを控えなければならない本当の理由は、プリン体とは関係ありません。アルコールが問題なのです。アルコールには、尿酸の排泄を低下させる作用があるので、お酒の種類にかかわらず、飲酒すると尿酸が体内に蓄積しやすくなります。特に「排泄低下型」の方は、要注意です。

アルコールが悪さをするわけですから、「プリン体ゼロ」を選んでも、アルコールを摂取してしまったら意味がないのです。お酒が好きな方にとっては苦渋の選択かもしれませんが、「ノンアルコール飲料」で我慢しましょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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